大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和51年(ネ)1577号 判決 1977年3月30日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

原判決を取り消す。

(主位的請求)

1 被控訴人らは各自控訴人に対し金五二二万三二〇円およびこれに対する昭和四七年一二月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

3 仮執行の宣言

(予備的請求)

1 被控訴人らは各自控訴人に対し金二六一万一六〇円およびこれに対する昭和四七年一二月一〇日から支払すみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被控訴人らの負担とする。

3 仮執行の宣言

二  控訴の趣旨に対する答弁(被控訴人両名)

主文同旨

第二当事者の主張および証拠関係〔略〕

理由

当裁判所は原審と同様、控訴人の本訴請求は、いずれも理由がないので、これを棄却すべきものと判断するものであつて、その理由は、次のとおり付加するほか、原判決の理由説示と同一であるから、これをここに引用する。

さきに引用した原判決の理由説示に明らかなとおり、本件事故は、控訴人および被控訴人らの共同不法行為により発生したものであり、訴外亡小西毅の死亡は控訴人および被控訴人らの過失の競合によつて招来されたものである。以下これを詳言すれば、

1  本件事故は、訴外亡小西毅が昭和四七年九月一七日午後九時三〇分ころ原動機付自転車を運転して姫路市広畑区小坂七四番地先路上(以下本件道路という)を東進中、同所中央付近にある深さ約一〇ないし一五センチメートル、長さ東西約一・五ないし一・六メートル、南北約一・四メートルの窪みにはまり、転倒したところ、たまたま右小西の後を自動二輪車で追随していた控訴人も右窪みにはまり込み、右車で小西を轢過して死亡するに至らしめたものである。

2  原判決理由2の(一)の(4)(5)(原判決九枚目裏冒頭から一〇枚目表三行目まで)に説示したような状況において、自動二輪車を運転する控訴人としては、左寄り通行することはもちろん、路面の状況に応じて直ちに対応できるよう徐行し、その前方を注視し、特に前車に追随して進行する場合、車間距離を十分にとり、かつ、前車の行動に万全の注意をして、前車との衝突など事故の発生の防止に努むべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、原判決理由2の(一)の(7)(原判決一〇枚目表八行目から同一三行目まで)に説示のとおり運転した過失により本件事故を惹起せしめたものであること

3  被控訴会社は被控訴人市との間で締結した配水管布設工事請負契約に基づき、本件道路を掘削し、配水管を埋設して埋め戻した後、アスフアルトによる簡易舗装(仮舗装)をしたものであるが、原判決理由2の(一)の(3)(4)(原判決九枚目表二行目から九枚目裏一一行目まで)に説示した状況において、前記工事の請負人としては、遅くとも台風の通過した同年九月一七日早朝には本件道路を巡回し、本件窪みを発見し、早速これを補修するか、これに警戒標識を設置するなどして、車両の嵌り込み、転倒などの危険を警告して事故を未然に防止すべき注意義務があるのにこれを怠り、本件窪みに対する何らの措置をとることもなく放置した過失があること

4  被控訴人市は、本件道路の管理者として、被控訴会社について認定したと同様の危険防止措置を自らまたは請負人である被控訴会社をして講じまたは講ぜしめず、これを放置したことは、その管理に瑕疵があるとしなければならない。

以上の次第であるから、控訴人の主張する損害は、被控訴人らの過失のみによつて発生したものではなく、控訴人自身の過失がこれに加功することによつて、はじめて発生したものであつて、控訴人主張の損害と被控訴人らの不法行為との間には、相当因果関係を欠如するというべきであり、相当因果関係がない以上、被控訴人らの国家賠償法(被控訴人市に関し)および民法上の不法行為責任を追及する控訴人の本位的請求は理由がない。

控訴人の予備的請求について、控訴人と被控訴人らとの間において、その過失割合についての原審の認定を覆すべき新たな証拠はない。

よつて、本件控訴はこれを棄却すべく、訴訟費用は敗訴当事者である控訴人の負担として主文のとおり判決する。

(裁判官 宮崎福二 田坂友男 中田耕三)

その一(控訴人)

第一本位的請求について

一 原審は、判決理由中、「二、本位的請求についての判断」と題し、次の通り説示する。

以上の通り原、被告等は、いずれも本件事故につき、共同不法行為者として被害者の相続人等に対して、損害賠償の義務を負うべきであるから、原告の無責任を前提として損害の賠償を求める第一次請求は理由がないものと言わねばならない。

二 しかし乍ら、原告が亡小西毅の相続人に対し、損害賠償の義務があるか否かと、本訴における請求原因たる被告等に民法七〇九条の不法行為責任の有無や国家賠償法第二条に基づく損害賠償の責任の有無とは全く別個の問題であるので「原告の無責任を前提として損害の賠償を求める請求は理由が無いものと言わねばならない」という説示は、理解し難いところである。

三 本訴に於いて、被告等に対し、損害の賠償を求めている請求原因たる事実は、道路に於ける瑕疵である。

その瑕疵の故に、被害者亡小西毅が損害を蒙つたのみならず、原告も又損害を蒙むつているのである。

即神戸地方裁判所姫路支部昭和四八年(ワ)第二五九号事件について、同裁判所の言渡した限度においては、原告は法律上小西の相続人に対し、損害賠償の義務があり、損害を蒙つたものである。

その損害を蒙つた原因は、道路の瑕疵にあることは明らかであるから、その損害を発生せしめた原因について、被告等は、責任あるものである。

それ故に被告等が、原告にその金員を支払い、原告が小西の相続人にその金員を支払えば、その支払つた限度内に於いて被告等の小西に対する損害賠償の責任は消滅するものと言わねばならない。

四 右の限度に於いてのみ、小西に対する責任と本訴とは、関連があるに過ぎないのに前記の如く、原告の請求を棄却した原審の判断は、誤れるものと言わねばならない。

五 従つて前記の原告の無責任を前提として損害の賠償を求める請求は理由がないと言う説示は、被害者に過失があるから、損害の賠償の請求は理由がないと言うと同じく、失当である。

前記、昭和四八年(ワ)第二五九号事件に於いて、原告の過失が認められ、右は確定したので、原告の過失を争う余地はないが、本件に於ける被告の道路瑕疵がなかつたならば原告の過失の問題も又起らなかりた事は明らかである。その理由は、道路の瑕疵の故に被害者小西が道路の穴にはまり、道路上において転倒したところへ、原告が乗上げたものであるからである。

若し、道路の瑕疵がなければ、小西の転倒と言うことも起らず、従つて原告のその上を通過ということも起らなかつたであろうことは、容易に理解されるところであるからである。

六 以上の次第で本訴は小西と加害者との間の問題を論じているのではなく、原告と被告との不法行為上の責任を問題としているのであるから、「原告の無責任を前提とする請求であるから理由がない。」という理由は納得し難いものと言わねばならない。

第二予備的の請求について

七 原審は原告の予備的請求についての判断において、次の通り説示する。

二 本件事故は、前示認定(第一項2(二)(1)(2)(3))の各責任上特に原告において道路状況に即応出来るよう徐行し、且つ前車との間に適当な車間距離を保ち前方を注視すると言う注意義務を充分つくしていなかつたことに鑑み、被告等のそれにして、原告の責任は特に重く、その責任に照してその負担部分を原告六、被告四、被告会社各々二と判断する。

八 しかし乍ら、右は被告等の原告に対する不法行為上の責任の無いことを前提とする過失の度合であるところ前記の如く被告等は原告に対して不法行為上の責任があり、右責任の故に原告の過失も発生したものである事情を加味するならば、その負担部分の割合は全く失当と言わねばならない。

九 原審は前記の如く、道路状況に即応出来るよう徐行し、且つ前車との間に適当な車間距離を保ち、前方を注視すると言う注意義務を充分注意していなかつたことに鑑みと説示するけれども、該当道路を進行した車輌は、原告運転の車を含めて数台が狭い道路を進行していたのであるから、原告の車のみに特に厳格な注意義務を要求することは困難であり、それなるが故に道路の安全には充分の注意義務をつくす必要があり、従つて過失の割合は、以上の事情を考慮する時は原告に二、被告各四ずつを以つて相当と考える。

共同不法行為者間の求償権の行使については種々の意見の対立があるが加害者の被害者に対する弁償はその金額の如何にかゝわらず、被害者の一応の満足が得られた限度においては共同加害者の責任の消滅をきたしているのであるから、求償権を行使さすべきものと考える。

右は被害者救済の趣旨においても認められるべきものである。

従つて予備的の請求は理由ありと言うべきである。

仮に然らずして原審の通りの法解釈を是認するとするも、以下の理由により被控訴人の請求は、一部理由ありと言うべきである。

十 以上の次第につき、仮に原判決三、1のような見解をとるにしても、その負担部分は一八五〇万三九六二円の2/10に当る金員は、三七〇万七九二四円であるので、その負担部分を超過する五二二万三二〇円との差額は之を賠償すべきである。

以上

その二(被控訴人福和建設株式会社)

(1) 本位的請求について

控訴人が訴外亡小西の相続人に対し支払つた金員は、控訴人が同亡小西に加えた不法行為より生じた責任の賠償として支払つたもので(共同不法行為とする原判決は正当)、その賠償金を被控訴人らに対し控訴人の被つた損害として賠償請求できないのは当然であり原判決は正当である。

控訴人は、被控訴人らの国家賠償法(被控訴会社には関係ない)及び民法上の不法行為責任を追求するものであるが、それにより被控訴人が責任を負うとしたらそれは、被控訴人の不法行為と相当因果関係にある損害についてであり、本件請求金は相当因果関係がない以上本請求は認められない。

(2) 予備的請求について

原審認定の過失割合については不当である。がそれは控訴人の割合が少ないという意味において不当というのであつて、控訴人の主張は認められない。

以上

その三(被控訴人姫路市)

一 控訴人の本位的請求(損害賠償請求)の主張に対し

本件事故につき控訴人が被控訴人らと共同不法行為者と認定されたからには被控訴人らに対する損害賠償請求は不当であることは明らかで原判決の判断は正当である。

控訴人主張のやうな論が立つとするなら、反対に仮りに被控訴人市に道路管理上の瑕疵があつたとしても控訴人さえ運行の用に供してはならない車輌(自賠責保険不加入)を運転することをしなければ、又運転するにせよ原判決摘示のやうな過失をおかさなかつたならば控訴人による本件轢過死亡事故は起らず被控訴人もその責任を問はれる事態に至らなかつたのであるから被控訴人は控訴人に対し損害賠償請求をなし得ることになり不当である。

二 控訴人の予備的請求(求償請求)の主張に対し

この点に対する被控訴人市の主張は原判決事実摘示第二、3四、五のとおりであり原判決の判断は正当であり、控訴人主張の本件共同不法行為者間の負担部分割合率は不当である。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例